行かなきゃダメなんです!
ああああ、陸に上がりたい・・・
これが当時の私の率直な、しかも切実な
気持ちでした。
無理もありません。
当時わたしは高校3年生。
誕生日前でしたので若干17歳の少年です。
親元離れて某水産高校に入学し寮生活を
満喫していたのも束の間、わかっていた
とはいえ過酷な「海洋実習」という
2か月間に渡る海の上での協働漁労と
共同生活。
ひとつ屋根の下ならぬ一隻海の上
船という箱に集団閉じこもり。
コロナ禍のいまでは考えられない、
完璧すぎる「3密状態」
しかもその箱はロシア水域のベーリング海
という極寒の大海原に浮かんでいるので
逃げようにも逃げられない!
乗組員は生徒34名・付き添い担任ほか2名
そして実習船の船員12名・・くらいだった
と記憶している。
一隻の船の中にこれだけ人が集まれば
いろいろあります。
そんな過酷な船の中での漁労と非日常の
海の上での共同生活体験を
”全4回” にわたってご紹介します。
1の巻 海洋実習とはなんぞや?
2の巻 生まれて初めて五分刈りに・・・
3の巻 持ち込み検査
4の巻 いざ出航!
5の巻 海水の風呂は真っ赤?
6の巻 ベーリング海は不気味
7の巻 悪魔の大しけ。ハンパ無い波!
8の巻 操業は意外に楽しい
9の巻 シャチが!!
10の巻 ロシア水域で友達ピンチ!
11の巻 タバコを吸ってバレた友人!
12の巻 釧路港に上陸!夢にまで見た陸!
13の巻 函館港に帰港 ~実習修了
【1の巻】海洋実習とはなんぞや?
水産高校に入学して3年目の春、
海洋実習の説明会が行われた。
私が入学した高校では3年生になると特定
の学科の2クラスで「海洋実習」なる
行事が課されていました。
全国にある水産高校では、水産庁主導の
もと各都道府県が所轄・保有する
「実習船」により航海実習や漁業実習、
海洋調査等を行っています。
私は某水産高校にて実習を体験することに
なるのですがその実習まえに説明を受けた
内容が以下のようなことです。
(2か月間とする)
・実習海域は北太平洋ベーリング海
・調査魚種はサケ、マス
(延縄漁と流し網漁による調査)
・チューンガム,炭酸飲料は持込禁止
・全生徒は「五分刈り」とすること
ほかに色々と細かい説明がありましたが、
だいたいこの様な内容だったと記憶します。
入学前からわかっていたとはいえ
「2ヵ月間海の上」とは想像もつかない。
しかし私の中で
納得いかなかったことが2つほどありました。
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納得いかなかったこと・・・
一つ目は
「極寒のベーリング海」へ向かうということ。
なぜここに引っ掛かったかというと、私の
中学同級生でほかの水産高校に入学した奴
は私とおなじく海洋実習があったのですが
な なな 何と!
そいつの実習先は常夏のハワイ
くそ暖かい南洋でのマグロ海洋調査
という好待遇
それを事前に知っていたのでどうしても
ハワイと比較してしまいます。
何でアイツがアロハー♪に行けるんだよ!
もう羨ましくてヤキモチしかありませんでした。
そして二つ目。
今でも謎なのが「炭酸飲料」が持ち込み禁止???
意味不明です。。。
チューンガムは噛み終わって吐き出した
ガムによって船内のトイレなどの排水菅
詰まりを防止する為だから理にかなって
いるけれど・・・
船の上で飲むことで何か問題が発生
するのでしょうか?
ゲップは罪?
まぁそれは決まったことだからしゃあない
(規則を守るかどうかは別として・・・)
【2の巻】初めての五分刈り
そして月日は流れ・・・
いよいよ海洋実習の2日前となりました。
決まり事にもあったとおり生意気にパーマ
をかけたこの髪をバッサリと五分刈りに
する日です。
私は生まれてこのかた五分刈りなんてもの
は経験なし。
中学・高校の部活ではせいぜい
「スポーツ刈り」と当時は呼ばれた
短髪程度でよしとされていた比較的
あま~い部活動生活でした。
そして何といっても当時付き合っていた
彼女に対して
カッコ悪いなぁ・・・
などと甘ったれた精神。
とても「海の男」などと名乗れるような
タマじゃなかったのです。
行きつけの床屋さんに
「五分刈りにしてください・・・」と
言ったときはさすがに大将もびっくりして
聞き直されました。
それでも事情を説明したときの
嬉しそうな顔といったら・・・
なにせ普通の髪形と違い、なんの気遣いも
なしにひたすらバリカンで刈り上げれば
いいんですから。
しかも床屋人生のなかで五分刈りという
リクエストもそうそう無いでしょう。
まさにルンルンでバリカンのスイッチを
入れる大将。
せっかくの五分刈り。
普通に刈ったのでは面白くないと左右半分
ずつ刈ってみるなど私と二人で遊びながら
のカットとなりました。
結果は私自身の童顔も手伝って
まさに「一休さん」そのものに
仕上がりました。
【3の巻】持ち込み検査
さて、
2ヵ月も海の上となると楽しみが必要。
人間、やはり楽しみといえば食べること
ですよね。
出航まえの数日前に長い実習期間中に必要
な着替えや食料そのほか様々な私物を事前
に船に積み込みます。
そして荷物の中に禁止されているものが
入っていないか?
などをチェックするための持込検査を
受ける必要があるのです。
先にご紹介したとおり、荷物には
ガムや炭酸飲料を持ち込むのは禁止
されています。
持ち込み前の荷造りに際し、
事前に買い出し。
好きなお菓子やジュースを大量に買い
込み、船に持ち込むのですが・・・・
そこはまだうら若き高校生です。
コーラなどの炭酸飲料も飲みたい。
シュワシュワでスッキリしたい時だって
そりゃあ あります。
やはり禁止されているとはいえ飲みたい
ものは飲みたい!
そこで隠して持ち込むことを決意。
バカ正直に応じる私ではありませんでした。
方法はというと割とシンプルに着替えの
洋服にくるんで紛れ込ませるという手法。
そのため10本ほど持ち込むのが精一杯でした。
しかしまだまだ・・・・
これだけでは2ヵ月間耐えられそうにありません。
当時わたしはご多分に漏れず、
タバコを吸っていました。
このタバコをどうやって持ち込むか?
持込時に乗組員の方々が段ボール箱を
開けて検査するのですが、万が一炭酸が
バレても抜き取られて没収されるだけ
ですから可愛いもんです。
それがタバコとなると没収どころか即停学
どころか乗船(実習参加)禁止となり卒業
にも関わり大ごとです。
更には私だけに済まされずそれがキッカケ
でより細かい持ち物チェックとなる恐れも
あり、周りの喫煙仲間にも迷惑をかけて
しまうことに繋がります。
ここは慎重に慎重に・・・・・・・・
ということで考えた結果!
ある方法を思いつきました!
BOXティッシュの中に入れてしまおうという手法です。
BOXティッシュの側面は必ず上下に
折り目が重なっていますよね。
その折り目を丁寧に丁寧にはがし、中間の
ティッシュを抜き取り、その抜き取った
空間にわが相棒のセブンスターを数箱詰め
再び折り返し部分をのりで貼付け・密封。
これを5箱作成して準備完了!
ここに完璧な「荷造り」が完成したのであります。
あと多感な高校男子にとって
もう一つの夜のマブダチ。
そう、大人の本。
これだけはどんなことがあっても
持っていかねば生きていけぬ!
なにせ2ヶ月という長〜い実習期間、
ご飯にはそれなりのおかずが必要
ですから。
段ボールに敷き詰め、新聞紙をかけてその
上に衣類やお菓子など必要なものを詰めて
私の旅支度は無事完了。
そして荷物の持ち込みの当日。
持込検査では何食わぬ顔で提出し、
各段ボールを開けられても難なく
通過したのでありました。
もちろん、わたし以外の仲間もこぞって
色々な禁止されたものを持ち込んで
おりました。
そして航海中に大変貴重となる炭酸飲料や
タバコは船のなかで飛ぶように売れたこと
は言うまでもありません。
今回は出航準備までをご紹介しましたが
次回はいよいよ港を離れるとき、
いざ出航です!